斉藤桂(23歳/油絵画家)Part.5|20代クリエイター限定インタビューマガジン creatalk

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5.絵が売れないのはつまらない作品だから

斉藤桂アンケート斉藤桂アンケート2

ーーこれから10年20年と描き続けていたいっていう想いはありますか?

「ありますね」

ーーでは目標というか、先に向けての夢みたいなものはある?

「出来るだけたくさんの人に自分の作品を観てもらえれて、話が出来たらいいな、輪が広がったりすればいいな、とは思います」

ーー例えば音楽やってますって人だったとしたら、メジャーデビューするのが最初の夢としてあって、その後はミリオンセラーが目標です、みたいな分かりやすいステップアップみたいなものがあるじゃない。でも画家ってそういうものがないと思うし、目標設定しずらいのかなって思うんだけど、そういう明確な目標設定はあるものなの?

「うーん……」

ーーそんなには考えていない?

「うん、まだまだ助走期間なのかなって思っていて。今は結構若いアーティストとか芸術家とか、そういう人がデビューしやすい環境にここ数年になってきて、でも逆にここ数年でそういう状況になってきたせいで、その人たちの10年後はまだ誰も分からないんですよね。だから消えて行く人も多い、っていうかほとんど消えて行くだろうし、毎年全国で何千人って人が芸術家を目指して学校を卒業していくわけだから。例えばフィギアスケートの選手なんかもすごく若くなって、その分引退も早くなったじゃないですか。枯れる時期っていうのは必ず来るから。だから今はまだまだ助走期間であって、とにかく色んなことを吸収して、嫌なことも好きなことも受け止めて行く、挑戦して行く、っていう気持ちです」

ーー若いアーティストが出やすい状況になって来たって話が出たけれども、例えばこの10年くらいでデザインがすごく注目されたりとか現代アートが一般的なものとして浸透したとか、美術界全体でも色んな変化があったと思うんだけど、油絵の作家を取り巻く環境としてはこの10年くらいでどう変わって来たと思います?

「今から10年くらい前だと全然違うと思います。まずギャラリーの数が違いますよね。銀座辺りにはもともと保守系の古い画廊が無数にあったんですけど、現代美術と言われるようなギャラリーはほとんどなかったんです。だから若い人たちが展示する場所がなくて、売れない・見せれない・食って行けない、っていう状況だったんですよ。それがギャラリーがいろんな場所にできてきて、展示する場所が増えて観てもらえる機会が増えて、そのうち買ってもらえるようになって。そうした中から村上隆とか奈良美智みたいな、一部ではカリスマみたいに言われる人たちが出て来て、新しい人たちが出やすい状況が出来てきたのかなっていう。海外ではもっと昔からそういう状況は整っていたらしいですけど、日本でもようやくそういうインフラが整いつつあるのかなという気がします。20年くらい前だったら僕なんかは絶対に無理だったでしょうね。展示させてくれるところがないわけですけら」

ーーそうなんですか。僕の中のイメージとしては現代アートとか新進的なものが注目を浴びるようになってきた中で、古典的な油絵とかのジャンルは埋もれて行く状況になって来ちゃったのかなと思ってたんだけど、そんなことはないんだね。

「それは全くないですね。それはやっぱり日本の教育もあるんでしょうけど。日本の美術の教科書ってペラペラに薄くて、美術史についてのことなんて何も描いてないじゃないですか。イタリアだったら社会の歴史の教科書と同じくらいの厚さがあるらしいんですよ。やっぱり美術にも歴史があるわけだから。ちゃんと古代の壁画からルネサンスとかピカソとかコンテンポラリーとか、ちゃんとした系譜ごとに教えているんですよね。それを知っていれば新しいものでも面白いと思えるようになるんだろうけど、未だに日本のおばさんたちは印象派が大好きでしょ(笑)。それは僕は全然否定しないし、それはそれでいいことだとは思うんですけどね。ただ、まだまだ土壌としては古典を書く人たちは尊重されやすいんですよね」

『Birthday』斉藤桂『Birthday』
(09年/29cm×21cm)
ーーでは今後作家としてやっていく時には、もちろん絵が売れないと食って行けないわけですよね。で、芸術の難しいところは、いい絵を描いていれば必ず売れるっていうわけでもないってことだと思うんです。もちろん「いい絵」っていうものが漠然としているということもあるし、いい絵ではなくても売り方によって売れて行くことはいくらでもあると思うんです。という中で、絵の売り方っていうのは部分は考えてますか? プロデュースという側面で。

「僕はまだそこまでは考えてないんですよね。というか、そんなこと考えないで有名になっている人もいっぱいいますから。例えばゴッホは生きている間は一枚も絵は売れなかったけど、あの時代はそういう状況だったってだけで、今だったらいい絵を描いたりいい作品を作っていれば誰かしら見てくれている状況なんだと思うんです。ある有名な現代美術家の言葉で「今君が売れていないのは、見つけてもらえていないからではなく、ただつまらない作品だから」というのもあって。それはそうだなって思うんです。だから僕はとりあえず、いい絵を描くっていうことに邁進しょうとは思っていますね」

ーーではこれから先、自分はどういうものを描いて行くと思いますか? どういうものを描いて行きたいと思っていますか?

「うーん……それが変わっていくっていう、これからの分からない変化を楽しんで行けたらいいな、とは思いますね」

ーーちょっと話題は飛びますが、すごく不安定な仕事で生きて行く道を選んだわけだけど、将来的に結婚したいとかは思う?

「それは分からないですね。どういうところに幸せを感じるかって人それぞれじゃないですか。作品を作り続けることに幸せを感じればずっと一人でやり続けるだろうし、結婚して子供を作ることが幸せだって思えばそうするだろうし。収入はマチマチだけど家族で仲良くやってれば幸せだって思えれば、絵を描かなくなっても別に間違いではないと思うし。だから分からないけど、今後これが幸せだって思えることを見つけられればなとは思います」

ーーでは最後です。30歳までの目標を描いて下さい。

「うーん……、生きるってことくらいかなぁ(笑)」

ーーストレートだ(笑)。ありがとうございました。

目標/斉藤桂

おわりに


彼は僕の質問に対して常にしっかりとした口調で答えてくれた。その姿は僕より年下であることを時々忘れさせたし、今後も絵を書き続ける、なんらかの作品を作り続けるという強い意思を感じた。「光」「蝶」などのモチーフとして彼の絵に込められた想いにも共感する部分が多かったが、それら世界や社会への過敏さや多感さは10代の思春期観が残っている若さ故と言うことも出来るし、初期衝動の延長線にまだいるのだという気がしたのも事実だ。
 しかしだからこそ、これから新たに彼が描く作品を早く見てみたいという気持ちにさせられる。彼がこれから生涯を賭けて描くテーマとはなんなのか、いつそのテーマに出会うのか。それともこれからもずっと世界の希望を探して筆を取り続けるのか。取材を終えて、これからの彼の歩みが楽しみで仕方なくなった。


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斉藤桂
(23歳/油絵画家)

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さいとうけい 1986年東京都生まれ
高校卒業後に現役で武蔵野美術大学造型学部油画学科に入学。グループ展を経験した後に在学中の08年にトーキョーワンダーウォール賞を受賞。トーキョーワンダーウォール入選作品展(東京都現代美術館)に参加し、東京都庁での入賞者展にて個展を開催。09年11月には東京コンテンポラリーアートフェア2009(東京美術倶楽部)にて個展「よしんばてふてふが飛んだとして」開催。今後の美術界を支える注目の若手作家。

twitter:@keichikurin

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