斉藤桂(23歳/油絵画家)Part.4|20代クリエイター限定インタビューマガジン creatalk

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4.世界はネガティブで埋め尽くされているからこそ

『止まらない羽化』斉藤桂『止まらない羽化』 (09年/181cm×227cm)

ーーでは作品について少し踏み込んでみたいんですが、卒業制作で描いた『止まらない羽化』は、課題として与えられたテーマ的なものはあったの?

「それはなかったですね」

ーー世界はネガティブで埋め尽くされているからこそではテーマから自由に考えてということだよね。これはどういう感じで描いたの?

「これはまず、蝶々を描こうと思った理由っていうのがいくつかあるんですけど。小学校の頃に観た 『ジュラシック・パーク 』 (93年)の中でイアン・マルコムっていう数学者が出て来て、カオス理論の話をするんです。バタフライ効果とも言われてるものですけど、北京で蝶々が羽ばたくとニューヨークで嵐が起こる、っていう。地球の裏側で蝶々が羽ばたいたことが巡り巡って地球の反対側のNYの嵐に繋がってるっていうことですよね。つまり人はなにかしら影響を及ぼし合って生きているっていうのはよく言われることだと思うんですけど、だとしたら自分がなにか起こしたアクションや行動からは蝶々が飛び立ってるはずなんですよ。もちろん観えないけど、不可視の蝶々がね。それが幼い子供にどういう影響を及ぼしているのかってことを考えるのは無駄ではないって思ったんです。
 世界の仕組みとか構造を知れば知るほどにどんどん絶望に進んでいくというか、どうして人は人を殺してはいけないのかっていうのは本当は理由なんてないわけだし、自分が良かれと思ってしたことが巡り巡って悪い結果に繋がっていることもたくさんあるだろうし。でもそこからなにかを作って伝えていかないといけないでしょ。だからこそ、世の中はやっかいだ、っていう。だからこの絵の場合はですけど、この子に接した大人とか友達とかがこの子に無数の影響を及ぼしていて、それが全部自分の中で経験値とか価値観っていう不可視のものとして積み重なって行くんですよね。この子自身もそれを好きで受け入れていたはずなのに、いつの間にかそれが重みになっていったりもする。それに気付いた時っていうのが思春期なのかもしれないなって考えて。
 それで思春期ってなにかっていうのを考えた時に、例えば小学生に夢はなに? って聞けば、野球選手とかサッカー選手とかセーラームーンとか、みんなちゃんと答えられるでしょ。でも中学生になると、これは実現できないことなんだなっていうのを本能的に分かってしまう年齢になるんですよね。そういう大人になれない子供たちは、心は全然成長していないのに体だけが成長期でどんどん大きくなって、そこの乖離がどんどん広がって行く気がするんです。自分の価値観はどんなに幼いんだっていうことや、自分がどんどん汚い人間になって行くことに直面する時期な気がして。そういった色々なものを重ねて描いたって感じですね」

ーーうーん、すごい色んな想いが込められてるんですね。思春期に対するイメージが強いんですかね?

「強いですね。子供から思春期までに興味はありますね。電車に乗っていて横柄な大人を見ると、この人はいつからこうなったんだろ? ってすごく思うんですよね。子供の頃は絶対に違ったはずだろう? っていう。いきなり変わったわけではないはずで、だったら徐々にそう変わってしまった期間に立ち会ってみたい、なにがあったのか見てみたい、って思います」

ーー斉藤くんの絵からはネガティブなイメージを感じるものが多いように思うんだけど、思春期への想いは最近描いた絵には全て込められている?

「そうですね。世界はネガティブで埋め尽くされているっていう部分はある気はしますよね。だからこそ、希望の光がものすごい神々しく感じられるんだと思うんですよ。絵も一緒で、例えばデッザンを白い紙に描く時にガラスの光っている部分を描こうと思っても、紙の白以上の明るい色は出せないんですよね。じゃあどうやってコップの光を表現するのかって言うと、周りを黒く塗るんです。それは世界の仕組みと全く一緒だと思っていて。暗い部分があるから明るい部分が出てくるっていう。それは絵の面白い部分でもありますよね。
 だからその暗い部分って言うのはちゃんと見つめて行きたいし、眼をそらしたくないし、観ないようにしている人もたくさんいるんだろうし、僕もまだまだ観てない部分はあるんだろうけど、そこはやっぱりちゃんと観ないとって。そのうえでなにか希望の光を見つけられるのであれば、世界のリアルな姿を描けるんじゃないか、って思っています」

『それでも光を』斉藤桂『それでも光を』
(09年/65cm×53cm)
ーーそれは今現在描いているものはネガティブなものだと認めた上で、それを描ききった後になにかポジティブなもの、希望や世界のリアルが描けるんじゃないかっていうこと?

「そうですね。そうしたら今までの絵が意味を持つんじゃないかとも思います。やっぱり世の中ってギャップとかバランスで成り立っているから。黒があるから白があるんだと思います」

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斉藤桂
(23歳/油絵画家)

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さいとうけい 1986年東京都生まれ
高校卒業後に現役で武蔵野美術大学造型学部油画学科に入学。グループ展を経験した後に在学中の08年にトーキョーワンダーウォール賞を受賞。トーキョーワンダーウォール入選作品展(東京都現代美術館)に参加し、東京都庁での入賞者展にて個展を開催。09年11月には東京コンテンポラリーアートフェア2009(東京美術倶楽部)にて個展「よしんばてふてふが飛んだとして」開催。今後の美術界を支える注目の若手作家。

twitter:@keichikurin

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