まつきあゆむ(26歳/ミュージシャン)Part.6|20代クリエイター限定インタビューマガジン creatalk

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6.僕は僕のこと以外は歌ってないけど


まつきあゆむ(26歳/ミュージシャン)MAFの概要・残額表示ページ
(画像は2010年2月7日時点のもの)
ーー『1億年レコード』での手応えみたいなものは予想以上にあったんですかね。かなり広がってるなっていうのはツイッターとか色んな人のブログとか見ててすごい思ってたんですけど。

「いやこれは本当に嬉しいことなんですけどね。一番嬉しかったのは、音楽だけで食って行けるなって思えるほどの反応が今の所あって、これを上手く軌道に乗せれば俺の人生は大丈夫かもなって初めて思えたことで。先週も色んな議論になりましたけど、僕は別に世界を変えようとか思ってないし、世界の責任なんて取れないし、もっと小さいフォーカスで喜んでますよ。僕が届けたい人に届けたい音楽を自分で手渡ししていて、それがなおかつ僕の収入に見合うものというか、すごくいいサイズのものになっていて。だからこれ以上のサイズになった時にどんな問題が出てくるのかとか、これ以下のサイズになった時に俺は食って行けなくなるとか色んな不安はあるんですけど、その可能性を見せれたのが楽しいんです。だからこれからどうやって広げたり進んで行ったり、人にどう伝えていくかっていうのは本当に未知数ですし。一歩間違えれば誰かに引っぱたかれるかもしれない状態だけど、それはそれで楽しいって思うんですよ。これから僕がやることが全部正しいなんて思ってないですから」

ーー今回のまつきさんの試みみたいに、ダウンロードだけの販売で個人が音楽を売るって言うのは僕が聴いたことがなかったんですけど、海外とかではあるんですかね?

「どうなんでしょうね、完全に個人がってなるとちょっと分からないですね。でも意外とハンドtoハンドというか、手渡し感っていうのは全然あるんじゃないですかね。最近も僕ね、CORNERSHOP(コーナーショップ)ってバンドの曲を買おうと思ってどうやって買うのかなって調べて、itunesでも買えたんですけど、僕は普段itunes使わないからどうしようかなって思ってたら、Paypalで直接ウェブから買えるんですよね。それで本当に2、3分で決済出来るんですよ。でも実はその時にダウンロードしている途中で僕のマックがフリーズしちゃって。再起動してダウンロードリンクを開いたら、無効ですって表示が出ちゃったんですよ。でも外国のサイトのヘルプにメールするのってすごい勇気いるじゃないですか。「Hi!!」みたいなのから書き始めてね(笑)。
「英語あまり得意じゃないけど」みたいな前置きをしてから、「ダウンロード途中でマックが固まっちゃったんだけどどうしたらいいですか?」ってメールを送ったら30分しないくらいで「今ちょっとオフィスの外に行ってて遅くなっちゃってゴメンね!」みたいな感じで帰って来たんですよ。「オフィスに戻り次第にあなた専用のダウンロードリンクを作るからちょっと待っててね! それからあなたの英語はとても上手よ!」って(笑)。
それってすごい手作り感というか、ちゃんと人が売っているっている感じのメールで。やっぱり外国ってすごいなっていうか、俺がやろうとしていることなんてとっくにやられていて、それがしかもワールドワイドに動いてるわけですよ。遥かイングランドから僕みたいな若者の拙い英語のメールを読んで、英語上手よなんて気を使って言ってくれて。それはもうリスナーとしてはすごい嬉しいことですよね」

ーーすごくいい話じゃないですか! それにMAFの形にしても、値段を全部ちゃんと見えるようにしたり、すごく挑戦的だなと思ったんですが、あんなことするミュージシャンも初めてですよね。

「何にもしてない個人がお金を募るってことがまずないですからね。でも金額を公開するっていうことは当然というか、そうしないとフェアじゃないし。あれで金額を内緒にしてたら意味分かんないでしょ? そのお金で焼き肉食ってんじゃないのかって思われちゃうし。でもあの仕組みでこんなにお金集まるっていうのはすごい良いことっていうか、嬉しかったですね」

ーーあのお金はまだ使ってないんですか?

「1回だけ使いましたね(注:1月29日の取材時時点)。1300円くらいのマイクケーブルを買いました。でも本当に欲しい物しか使っちゃいけないお金だから、慎重になりますよね。欲しい機材とかあっても、MAFで買うからもう1回良く考えよう、ってなりますもん。普段だったら「もう買っちゃえ!」みたいのがあるんですけど、MAFだから、みんなが俺に託してくれたお金だから……って思いましたね」

ーー普段曲作る時は詞と曲はどっちが先なんですか。

「僕は歌詞が先に出来る場合と同時に出来る場合があって、曲だけあるパターンってないんですよ。最近はずっと同時に出て来てますね。僕は同時に出来るのがちょうど良いっていうか、調子良いって思ってるんで」

ーー歌詞書きながらメロディーが一緒に出てくるって感じなんですかね。

「そんな感じですね。最近はもう言いたいことが先にあって、これを歌うにはこういう言葉がいいだろうっていうの考えて、そこから出て来たメロディに合わせて言葉数揃えたりして。例えばこの前の『ミュージックサルベージ』って曲だと、あの色々な議論の中で自分に対して「手を取り合ってる時間はあるけど、いがみ合ってる場合じゃないでしょ」みたいなことを思って、それをどうやったら歌に出来るかっていう部分の勝負というか。
 やっぱりメッセージソングを僕は書きたいなってすごい思ってて。昔はそういうのはどうなんだろうって思ってたんですけど、いろんな意味でメッセージソングしか書けないんだって思うようになりましたね」

ーー小説の世界だと、最近出てくる新人が書いたものはすごく私小説的なものが多くて「自分の周囲数メートルで起こったことしか書けない」なんて揶揄されたりするこもあるんですね。音楽と文学っていうジャンルの違いはありますけど、そういうところから観ると基本的にまつきさんの歌詞はとてもパーソナルな内容で、個人的なことを歌うことに抵抗というかもっと大きいこと歌いたい、っていうような気持はありますか?

「小説の世界のことは分からないですけど、僕は大きいことを大きく歌うのは全然大きくないと思ってるんです。それはビートルズとかから教わったことで。なんかまた話が戻って同じような話になりますけど、結局ジョン・レノンとかポールとか庵野秀明が宇宙の話をしてもそれはジョンやポールや庵野さんの宇宙でしかないんですよ。ただ、それが見せ方によっては俺の宇宙にもなるんです。「遥かなる4000光年の彼方にまたたくオリオン!」とか言われてもやっぱり「ハァ?」ってなるでしょ。でも「僕が今飲んでる紅茶の中から宇宙が見えてる」だったら何か分かるような。だからやっぱり丸腰で歌詞とか映像を作っている人はどうしても私小説的になるし、それって昔から絶対変わらないことだと思いますけどね」

ーーではもう少し小説というか文学界的な側面からの話になってしまうんですが、売れ筋になる小説のひとつのパターンとして、読んでいる人が「まるで自分の話みたいだ」って共感できる物語っていうものがあるんですよね。多分まつきさんの歌はそれにすごく近いと思うんです。まつきさんが単純に個人的なことを歌っているのに、それが結果として色んな人にとっての自分の歌に聞こえるわけですよね。そういう部分は自分では考えますか?

「それは思いますよ。でもそれは結果論としてっていうか、僕が歌っている歌は全部僕の歌なんで。僕だけのための歌というか、僕のこと以外は歌ってないんですよ。ただそれが結果的に世界とか宇宙を歌ったりしていることになるのを目指しているというか、そうあるべきだと思っているんで。
 例えば「どこにでもライブに行きます」って宣言した時に岡山にも行ったんです。すごい田舎だったんですけど、僕と同じくらいの若い夫婦とひとりの女の子が家に泊めてくれて、そこから帰って来る時にその人たちが泣いてくれていて、こっちも不覚に泣きそうになってしまって。僕はいわゆる人情とかって斜に構えてるほうだったんですよ。でも人と人ってやっぱり強くて、この感情は歌にするしか吐き出しようがないと思って曲を作って、結果として今聴いてみるとそれはやっぱりみんなのことを歌っているなって感じられるというか。
 書いた時点で僕の手から離れるって言うのかな……まぁこういう言い方は格好良すぎてキライなんですけど(笑)、歌の着地点っていうのはやっぱり完全に未知数だから。その時に思ったことを120%の力で曲にしておくと、1年後に振り返った時にそれが 200%になって返って来たりするんで。それはすごいことだと自分でも思いますし」

ーー今回新しいやり方を始めたことで、これからの若い世代に対して、新しいやり方をひとつ切り開けたかなっていう気持ちもありますか?

「そうですね。可能性のうちのひとつ、というか。いろんなことがあるうちのひとつとして提示出来たかなとは感じてます。僕が時代の先頭だとは思ってないし、この後でみんな続けとかは全然思ってないんで。それは各自の判断で各自の責任でやるしかないし、僕もそういうつもりでやってるし」

ーー『1億年レコード』はかなり色んな人に届いている手応えもあるということでしたが、今後大手のレコード会社から声をかけられたらどうしますか?

「それはもう即ノーですね。でもこのノーはネガティブな感じや拒絶ではなくて。今は僕がやっている実験の用意をしただけに過ぎなくて、これからリトマス紙が何色になるのかとか、濾過した後に何が残るのかとか、それを見ないといけないから。それまではイエスは絶対にないし、他の人を入れたら意味なくなっちゃうし。それにMAFでお金をくれた人もガッカリすると思うし、僕もガッカリしちゃうだろうし。だからこれは大手が嫌いだからとかじゃなくて、今は誰とも組めないっていうことで」

ーーちょっと前のツイッターのPOSTで「言葉って言う道具より、音楽っていう道具で心を伝える方が上手すぎるから音楽で食って行こうとしてるんだと思う」っていうのがありましたよね。きっとそれがまつきさんの根底にあるものなんだろうなと思って、実はそれを読んだ時にはもう別にインタビューする必要ないかも、とすら思ったんですよね。それで実際に話を聞いてみて、やっぱりあのPOSTがほぼ全てだったなっていうことはすごい思ってます。

「あのツイートはそんなに格好良いものではなくて、俺って不器用だから音楽やってるんだよとかでもなくて、ただ事実っていうか。ライターの人は言葉っていう武器で戦ったり自分を守ったりするわけで、それが一番の装備アイテムでしょ。ジョブがライターだから文字が武器っていうのは決まってる。で、僕はツイッターとかで言葉を使ってコミュニケーションしたり戦ったりあるいは守ったりするし、それでこの前は議論になって色々やり合ってしまったんですけど、改めて冷静になった時に曲を作ってみたら、俺が言いたいことは全部その曲(討論の後に書かれた新曲の嵐♯97『ミュージックサルベージ』)に詰まっていたんですよ。それって難しいことかもしれないですけど、僕はそれが上手いんです。ということに改めて気付いたな、っていう。他のことは本当に人並みか人並み以下なんですけどね」

ーーちょうどこのタイミングなんでツイッターで起こっていた著作権を巡る一連のことも聞こうかなって思ったんですけど、まぁ難しそうだからいいやと思ってます(笑)。

「そうですね、もう時間もすごいかかっちゃうと思うし。でもあの議論をまとめてくれたやつを読んで貰えれば分かると思うんですけど、最後はすごいしょうもないというか、面白い終わり方になっていて、あれが全てというか。あれを読んで貰えれば僕はもう何も言うことはないんですよ。だから僕にとってもすごい有益なものになったし、僕は自分の中に還元して生きて行けると思うし」

ーー僕はまだツイッターやって1ヶ月くらいなんですけど、あれがツイッターの面白みなんだなって見ていてすごい思いましたね。

「本当そうですよね、ツイッターの良い部分が最後には出てきましたよね。あれをツイッターやってない人に言葉として説明するのってすごい難しいですけど」

ーーでは最後に30歳までの目標を色紙に書いて頂こうかと思うのですが……

「おぉ、マジっすか。なんだろうな……。エヴァの『Q』を観るとかにしようかな」

ーーそれは来年くらいには叶ってしまうんじゃ……?

「いや、あの人のことだからもっと時間かかりますよ。つーかこれ書くのすごいプレッシャーだなどうしよう……」

まつきあゆむ/目標

「最後にみつをって書き足したのが今の僕の限界ですね(笑)」

ーーありがとうございました!

おわりに


 今回まつきさんにインタビューをしようと思ったきっかけは、様々な新しい試みについて伺いたかったのはもちろんだが、かつてCDをリリースするも全く売れないという失意を経験しながらもそれでも音楽に賭ける想いはどこから湧いてくるのか、ということを知りたかったからだった。まつきさんは音楽や自分の才能に失望していても不思議ではないし、それでも音楽を続けるのならとてつもない不安と戦っているのだろうと思っていた。
 しかしまつきさんと話して実際に感じたことのは「まつきさんは正真正銘の音楽家だ」ということだった。まつきさんの中に宿り根付いているのは、将来への不安や音楽・音楽業界への絶望などではなく、ミュージシャンとしての誇りと音楽への揺るぎない信頼だった。

 まつきさんがビートルズを聴いて「音楽の力」を信じるようになったように、僕は今まつきさんが作る曲の力を絶大に信頼している。しかもそんな新曲が《毎週》生まれるのだ。こんな素敵な2010年に僕らは生きている。


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まつきあゆむ
(26歳/ミュージシャン)

まつきあゆむ(26歳/ミュージシャン)

1983年生まれ。14歳で自宅録音を始め21歳でCDデビュー、その後4枚のアルバムをリリース。07年にはmyspaceで毎週永続的に新曲を発表すると宣言した「新曲の嵐」をスタート。
2010年1月1日にダウンロード限定でまつきあゆむが直接販売する『1億年レコード』を発売し、リスナーから活動資金のための寄付金を集めるMAF(マツキアユムファンド)を開始したことで話題を呼ぶ。今年4月には全国を旅行しつつ、旅先でのライブをUSTREAM中継するスタイルのツアー「旅行」を敢行。
USTREAMにてインターネットラジオ「ほうかご実験クラブ」を毎週土曜日放送中。

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