まつきあゆむ(26歳/ミュージシャン)Part.3|20代クリエイター限定インタビューマガジン creatalk

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3.デビューして、翌日には世界が変わると思ってた

まつきあゆむ(26歳/ミュージシャン)

ーー08年にはミニアルバム 『まつきあゆむ』 を発売して色んなライブを経験し、その年の4月に「どこにでもライブに行きます」って日記で宣言しますよね。それで実際に全国色々ライブに行かれたと思うんですが、その後09年の2月に「もうライブはしません」(※3)っていう宣言になるんですよ。

「まさに今話してたことですよね(笑)。でもどっちも本気だったんです」

ーーだからその間に何があったのかなっていうのを思って。別にライブがつまらないっていう訳ではなかったと思いますし。

「そうですね。どこにでもライブに行ったことによって得たものも非常に多かったんですよ。一生付き合って行くであろう友達も出来ましたし、呼んでくれた人の家に泊まったりして、その人のために曲を作って新曲の嵐で公開して『1億年レコード』にも入ってますしね。そういう色んなものを貰って、でも色んなものを貰ったからこれからも続けて行くよっていうのは僕には言えなくて。それはなぜかというと、ライブの出来とか広がり方がすごく納得行ってなかったんですよ。だからこのままこの先も続けて行くことは全然出来るんだけど、1回ゼロにしたいというか。嘘ついてやってるような状態っていう言い方は乱暴なのかもしれないけど……。自分の中に歪みがあったというか、やりたいことをやれてないけどやりたいことをやってるぜっていう顔をしないといけないみたいな。それは俺はダメだと思ったし、だから人がついて来てないんだと思ったし。だからもう誰から嫌われてもいいからライブは1回辞めて、ゼロにしようって思ったんですよね。結果辞めて良かったと思いますし」

ーー『まつきあゆむ』発売時のインタビューでは、「自信作」という言葉が結構出ているんですよ。あのCDに関して、その後の手応えという部分ではどうだったんですか。

「うーん、そうですね、なんて言ったらいいんだろうな。4文字で簡単に「無かった」とか言っちゃうとあまりにも味気ないっていうか、僕の感覚とは伝わり方が違うと思うんで……。でも届かなかったっていう気持ちはすごくあって。あっさり言うと、CDを出してどうだったかっていうのを今まで振り返ってみると、全部悔しかったっていうことがいちばん大きくて。届いてる人に届いてるのを見るのは実感としてすごくあるんですよ、「このアルバムは良かったです」って言ってくれたりとか。ただ周りのムードを変えたりっていうところまでは引っ張れなかったというか。特にファーストの『自宅録音』を出した時は、翌日には世界が変わるだろうと本気で思ってましたし、それが当たり前だって思ってましたから。それが上手くいかなくてすごい心が折れてしまって。全然売れてないってどういうこと? って。聴いてくれて気に入ってくれた人たちはすごい盛り上がってくれてたけど、全然みんな振り向いてくれないし、っていうもどかしさがあって。そこの延長線上で他のCD出したときもずっとそういう気持ちは続いていて。だから結構ナーバスになった時もあって」

ーー『まつきあゆむ』を出したまでの流れで、CDを出すことやそれで食べて行くことへの絶望感、諦めっていうのが出来てしまったんですかね。

「絶望感というか、これじゃないのかなっていうのはずっと思ってましたけどね。そう思ってた積み重ねが『1億年レコード』に繋がったと思うし。そこに至るまでにCD4枚もかかってしまったっていうのは時間がかかっちゃったなって思うけど、でも必然だったかなとも思うし。音楽業界がこういう風に変化して行って、僕の宅録のスキルが上がって行って、僕が何回も挫折してそれを経てようやく『1億年レコード』っていう試みを出来るくぎりに来たっていうか、決心がついたというか。 
 まぁでも、成長しましたよね俯瞰して自分を見ると。『自宅録音』出した頃はプライドがめちゃくちゃ高かったから、僕がやってるものは最高なんだってことしか思ってなかったですもん。それはすごい大事なことだとは思うんですけど、今は『1億年レコード』なんてたかが音楽家風情と思って作ったし、プライドは残しつつも良い意味で手放して行くって言う感覚で。だからこんなに広く受け取ってもらえたのかなって部分もあります」

ーーそれでこの年明けで『1億年レコード』とMAFが始まりますが、思いついたのはいつなんですか?

「去年の10月とか11月とかですね。結構ギリギリでした」

ーーそれはもう年明けには発表にしようっていう計画で?

「そうです。2010年1月1日に何かやろうっていうのを思ってたんで」

ーー新しい時代の始まりに、っていう感じだったんですか。

「うん、やっぱり出すならあの時しかなかったし、それを出すにはCDではないとも思ってて。2010年1月1日の0時0分っていうのが僕にとってはすごく大事だとも思って。大晦日もずっと作業してたしね」

ーー28曲入り2000円っていうのも全部自分で決めたんですか?

「そうですね。全部僕が考えて客観視してみて、あとは本当に数人のスタッフというか、手伝ってくれてる人たちに相談してみて決めました。だから高校の時に「俺どうやって告白したらいいかな?」「こうやって言うのはどう?」「いやお前それは無いよ!」「じゃぁここはこういう言葉にして、場所は体育館裏にしようよ」みたいな、それくらいのレベルですよ(笑)」

ーー『1億年レコード』を思いついたときは、これで音楽の新しい在り方を切り開けるみたいな自信はあったんですか?

「でも過去の4枚の挫折の分、僕も静観してたというか。とにかく自分で自信あることをやってみたい、っていう感じで。CD出した時と一緒で覚悟は出来ているし、失敗したらまた何か新しいこと考えればいいやくらいに考えてたんですけど、今回は珍しく思った以上に広がってくれて。正直ほっとしてます」 

ーー大学卒業して2年か3年くらいはCDを出しても全然売れないっていうのが続いたわけですけど、そこで音楽を辞めてもう普通に働こうとは思わなかったですか?

「んー……それはなかったですね。別に普通に働こうっていう選択肢がなかったってわけではないんですけど、就職しても多分週一で曲は作ると思うし。そういう人っていっぱいいるじゃないですか」

ーーCDを出してみても全然売れなかったっていう失意から、とりあえずどこかに就職して安定した収入を得ながら暇を見つけて音楽活動をするのでいいかな、っていう選択肢を選んだとしてもおかしくなかったのになって思うんですよね。

「あーでも、安定した収入はバイトでも稼げるでしょ? やっぱりその先まで安定して生活して行きたいっていうのは、音楽家だからあまり思ってなかったですよ」

ーー23歳くらいだと周りが就職して普通に働き始めていて、そんな中で自分はこれで大丈夫なのかっていう不安はありませんでした?

「ゼロだったと言えば嘘になりますけど、でももっと下らない感じで……、質問の聞き方が格好いいからさ(笑)」

ーー(笑)そうですか?

「うん、俺はもっと下らない考え方で生きていて、「あいつら好きな時に焼き肉食えていいな」とかは思ってたけど、「でも俺は別に先週すげー良い曲書いたから」っていう。会社でみんな大変な思いしてて大変そうだな、とかは思いますけど。特にツイッター始めてからは周りの働いている人たちが日曜日の夜になると「明日月曜日だよ、マジか」とか書くでしょ。そういうのはヘビーだと思うし。だから逆に尊敬している部分もたくさんあって、最近は会社で働いている人も僕みたいな自分で音楽作って売ってる人も、やってることはそんなに変わらないと思うんですよ。必死で生きてるしみんな頑張ってるから偉いなって思うし、だから俺も頑張ろうっていう気持ちになるんで。どっちがいいとか悪いとかではなくて、やっぱりみんな一緒ですよ」

ーー大学を出てライブしたりCD出したりしていた頃も、音楽での収入って言うのはほとんどなかったんですよね?

「なかったですね。年に2、3回くらい印税がちょっと入るくらいで、それも飲み代程度ですぐになくなっちゃうくらいの額なんで。それを生活の基盤にしようとは到底思えない額です」

ーー今実際に音楽で食ってくっていうと、ちゃんとした有名なレーベルにいてCDがガンガン売れてる人っていうのと、スタジオミュージシャンみたいな演奏家と、それくらいなんですかね?

「んー、もはやそれも破綻して来てるっていうか。すごい有名なレーベルにいる人でもバイトしてる人とかもいっぱいいるし。逆に自分の方法論でいろんな人に呼ばれて行って、そのギャラで食って行けてるような人もいますしね。音楽だから、会社どこだといくら貰えるっていうのでは基本的にないんで、人それぞれっていうかね」

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まつきあゆむ
(26歳/ミュージシャン)

まつきあゆむ(26歳/ミュージシャン)

1983年生まれ。14歳で自宅録音を始め21歳でCDデビュー、その後4枚のアルバムをリリース。07年にはmyspaceで毎週永続的に新曲を発表すると宣言した「新曲の嵐」をスタート。
2010年1月1日にダウンロード限定でまつきあゆむが直接販売する『1億年レコード』を発売し、リスナーから活動資金のための寄付金を集めるMAF(マツキアユムファンド)を開始したことで話題を呼ぶ。今年4月には全国を旅行しつつ、旅先でのライブをUSTREAM中継するスタイルのツアー「旅行」を敢行。
USTREAMにてインターネットラジオ「ほうかご実験クラブ」を毎週土曜日放送中。