加耒徹(26歳/バリトン歌手)Part.6|20代クリエイター限定インタビューマガジン creatalk

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6.クラシックへの危機感

加耒徹(26歳/バリトン歌手)

ーークラシック歌手の人たちの収入の話なんですが、呼ばれて歌いに行ったり自分のコンサート開いたりが主な収入になるんですかね?

「まぁ色んなケースはあるとは思うのですが、ひとつ大きいのはプロのオペラ劇場に所属することですよね。定期的な公演と稽古日程が組まれて、保障もある程度されるでしょうから。でも、日本では知るなかではひとつしかありませんかね。だから営業しながらいろんな人と知り合ったりして人脈を広げて、個人で演奏会を開く場合もありますけど例えば病院に行って歌ったり、ビアホールで歌ったり、パーティーに行ったり結婚式に呼ばれて行ったり。そういう人脈がすごく大事な世界なんですよね。フリーのライターさんとかも多分同じ感じですよね?」

ーーいや本当に一緒ですね。歌手っていうとイメージが変わりますけど、フリーランスって意味では同じなんですね。でもそういう所属できるプロの団体は日本だとたったひとつしかないんですか?

「それはもう文化なんですよね。ヨーロッパではオペラっていう伝統芸能を支えようって動きがすごく大きくて、それぞれの市や街にひとつつづあるんです。それをスポーツチームみたいにみんなで応援して支えるという状況で」

ーーヨーロッパだとオペラやクラシックはすごく身近なものなんですね。

「日本と比べると身近なものなんだと思います。残念ながら日本の伝統文化、能とか歌舞伎とかは今大変な状況だと思いますが、ヨーロッパは特に国のものを守ろうとする思いが強いみたいですね。その分人種的に閉鎖的だったり難しい部分もあるらしいですけど。でもそれに比べると日本やアメリカは新しいものを作っていこう、取り入れて行こうって風潮が強いみたいです」

ーー日本でクラシック音楽ってやっぱり馴染みないですもんね。

「気軽に聞ける場所はなかなかないですよね。ご飯を食べながら聴くっていうのは日本ではここ(取材場所として協力して頂き、加耒さんも定期的に出演している音楽ビアプラザライオン)くらいですよね。だからそれが日本のクラシックの問題だなって思ってるんです。あまりにも閉鎖的で、こうじゃなきゃダメだって言われてることが多くて」

ーー今クラシックを聴いている人は50歳とか60歳くらいの人が多いと思うんですけど、ああいう人たちは昔から聴いてた人たちなんですか?

「そうみたいですね。いつ頃かは分からないですが、歌声喫茶みたいなものが流行った時期の人たちが多いみたいです。クラシックブームも昔はあったらしくて、当時は聴く機会も多くて自然と馴染んでいて、その時を懐かしんでる人に来て頂いてることが多いみたいですね。だから今は若い人がクラシックにハマる、良さに気付く機会がなかなかないんですよ」

ーーそういう部分で危機感がありますか?

「このまま行くとかなりマズい状況ではありますよね、確実に」

ーー50歳になったから急にクラシックを聴き始めたわけではなくて、昔聴いてたから今でも聴いてるんですもんね。ということは、このままクラシックに馴染みがない世代が増えて行けば確実に日本のクラシックは衰退しますよね。

「やっぱり何かしらの馴染みがないと直接足を運んでまでは来てくれないですからね。そのきっかけが今はなかなかないんです。一時期癒しブームがはあった時は一瞬復活してきたかなって予兆はあったり、今は『のだめカンタービレ』があったりするので若い人の関心も多少は出たのかなとは思いますけど」

ーーなるほど。ではクラシック歌手としてフリーで行きて行く上で、重要なことってなんでしょう? 

「それは本当にその時の巡りというか、人間性も大切ですし。実力が重要なのはもちろんですけど、それよりもその人の信用が大事にされるところはありますよね。本当に収入も差が激しいですけど、だからと言って安い仕事は引き受けないってこともないし。あまり収入にこだわらずに、自分のやりたいことをやれれば一番いいんでしょうけどね。でも難しいです、やっぱり」

ーー本当にライターとかと変わらないですよね、フリーランスの人って感じで。

「そうですよね。お金にこだわってたら普通に就職したほうがよっぽどマシですよ」

ーー音楽辞めて会社に入ろうとかは全然考えてなかったんですか?

「それはずっと前から考えてなかったんですよ。きっかけがそこだったかもしれないくらい重要なポイントで。小学校で将来の夢を書く時に、僕は「サラリーマンになりたくない」って書いてたんですよね。うちの親も園長さんだから自営業みたいな感じだったし、サラリーマンっていうのが理解できてなかったんでしょうけど。でもなんか月金で働いて土日に休むっていう感覚が小さい頃からどうも抵抗があって。そうならないためにというか、言い方は悪いですけど、他に何か特別な職業はないかなって思ってて。サラリーマンやりつつも自分のやりたいことをやれるなら別にいいんですけど、好きなことが見出せなくなってしまうんじゃないかというのが怖くて、そこに抵抗がずっとあったんでしょうね」

ーーもう同年代では就職してる人が多いと思いますけど、そういう人を見てどう思いますか? 

「大変そうではありますが、今はとにかくすごいなって思いますね。仕事にも慣れて顔付きも変わるってくるし。そういう部分は本当に尊敬します。就職して社会に出るっていう過程でみんなガクっと一気に大人になりますよね。だからそういうものが音楽界でもあればいいのになとは思うんですよ。フリーでやってるとプロとアマチュアの狭間ってすごく曖昧じゃないですか。お金もらう以上はプロとも言えますし、ちゃんと演奏しないとプロとは言えないかもしれないし、そうやってなんとなく一人前になってしまうので。だから一回はそういうシステムに入る経験がしてみたいなとは思っていますね」

ーークラシックの現状についてお聞きしたいんですけど、なかなか若い人に浸透してないですよね? それを打開したいって気持ちもあるんですか?

「ありますね、やっぱりそこが育たないとだめだと思うんですよ。だからある程度崩すことは必要だなって考えてます。いかにもクラシックっぽいものを続けてどんどん閉鎖的になっちゃうと、若い人の目が向いて来ないと思うんですよ。新しいもの、面白いもののほうが若い人は興味があるじゃないですか。だからそういう新しいクラシックの形を作っていきたいなと思っていて、それをさっき言った田中圭介とやろうよって話をしてたんです。あくまで歌はクラシックとして真面目に歌うんだけど、演出を現代っぽくしたりとか。古くからのクラシックの人たちからするとそういう試みはタブーみたいな意識もあるみたいですけど、僕は惜しみなくやっていきたいなと思ってます」

ーー今までになかった新しい形のクラシックを作ることで若い人たちにも興味を持ってもらえればってこと?

「本当は今まで通りのスタイルでクラシックを聴いてもらうのが一番だとは思うんです。でも聴いた上で好き嫌いを判断してもらう以前に、まず聴く機会がないことが問題だと思ってて。聴いてもらう機会を作るためにはもっと面白そうだなって思ってもらわないといけないんで。それは試行錯誤していきたいなとは思いますね」

ーークラシックで新しいものを作るってことをけしからんと思う人も多いんですか?

「そう思う人もいるでしょうね。でも僕としてはあくまでもクラシックの質は下げないで、かつ面白いことをやりたいなって思ってるんですよ。質を下げまではやらなくていいって考えてます。あとはメディアとか上手く使っていけたらいいなとも思ってるんですけど、なぜかクラシックの人がメディアに出ることは少ないですよね。やっぱり需要が……なのかな。せっかくそういう抜群の機会があるのにもったいないなって思うんですよ。演奏は生が一番いいとは思いますが、そこに必要以上のこだわりを持つ必要はないと思いますけどね」

ーーでは最後に30歳までの目標をお願いします。

「うーん、何がいいですかね。もうあと4年か5年ですもんね、30歳なんて。海外進出したいなとは思ってるんですけど」

ーー海外で歌ったことはまだないんですか?

「遊びで行って歌った程度しかないですね。来年には歌いに行きたいと計画中ですが、でもそれと進出はまた別で。進出っていうのは住居を向こうに構えてってことで考えてて。うん、シンプルに海外進出にしましょう。海外進出します!」

加耒徹(26歳/バリトン歌手)

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加耒徹
(26歳/バリトン歌手)

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かくとおる……1984年5月生まれ。福岡県出身。
5歳よりヴァイオリンを始め、高校で声楽を始める。2004年、東京藝術大学音楽学部声楽科バス専攻に入学。卒業時の2008年、同声会賞受賞。新人演奏会出演。現在は藝大修士課程の二年次在籍中。第20回友愛ドイツリートコンクール第2位。併せて日本歌曲賞、日本Rシュトラウス協会賞を受賞。
声楽を福嶋敬晃、勝部太の両氏に師事。これまでにG.ボッセ、M.アンドレーエ、E.オルトナー、F.レニッケ、鈴木雅明、現田茂夫、小泉ひろし等の指揮者のもと、九州交響楽団、藝大フィル等と共演。音楽ビアプラザライオンメンバー。その他受賞歴・出演歴多数。

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