加耒徹(26歳/バリトン歌手)Part.3|20代クリエイター限定インタビューマガジン creatalk

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3.自然とクラシックだった

加耒徹(26歳/バリトン歌手)ステージでドイツ歌曲を唄う加耒さん。(取材協力:音楽ビアプラザライオン)
ーーバイオリンを始めたことをきっかけとして音楽をやりたいって思いは小さい頃からあったと思うんですけど、バンドをやろうとかポップスを歌いたいって方向には行かなかったんですか?

「それはなかったんですよね。中学高校とのブラスバンド部で色んな楽器を試して、サックスを吹いた時はジャズに惹かれたりもしましたけどね。ポップスも全然聞いたりしてたし。あの頃はDragonAshとか流行ってて、そういうのも楽しいなって思ったり。でもオーケストラに入りたいっていう気持ちもあったし。う〜ん……なぜかクラシックでしたね。何ででしょうね?」

ーー全然クラシックに馴染みがない人からするとそれがすごい謎な所だと思うんですよね。どうしてクラシックなの? っていう部分は。

「そうですよね。でも何でしょうね?」

ーーそういう感じなんですね(笑)。まぁ小さい頃から親が音楽をやっていて、自分の中ではすごく自然な流れだったんだろうとは思うんですけどね、きっと。

「すごく自然でしたね。強制されたわけでもなく自然に。父親は音楽はやってなかったですけど、聴くのは好きだったみたいで家でもよく流れてたし、自然にクラシック音楽を聴く方が多かったんですよ」

ーーDragonAshが好きだからと言って、俺もラップしよう! とはならなかったんですね。

「なかったですね。……あ、スピッツとかも好きだったんですけど、声が低いのでカラオケでは歌えないんですよ!」

ーーえ、そうなんですか!

「そうなんですよ〜。あとはポップスの世界はすごい厳しいって思ってましたね。路上で歌わないといけないのか〜とか(笑)。でもクラシックに入ってみたらそれはそれでこの世界もすごい厳しかったんですけど、その時は全然分かってなかったですね」

ーー今はバリトンとして歌ってますが、それはどの段階で決まるんですか?

「声変わりをしてからですね。それで歌ってみると大体の限度は分かるんです。僕の場合体は細くていかにもテノールっぽいし、喋り声も結構高い方なんですけど、歌うとなるとなかなか高い音は出なくて」

ーーそれはそれぞれに持って生まれたものなんですかね?

「訓練すればある程度は広い音域で出るようにはなりますけど、ほとんど持って生まれたものなんだと思います。声帯のつくりの問題なので。あとはバリトンっていう役柄も好きだったんですよ。オペラではいつも第三者みたいな役が多くて。テノールの人とソプラノの人がイチャイチャしてて、そこにバリトンが入って行ってソプラノの人を横取りしようとするけど、最終的にはやっぱりテノールとソプラノが仲直りする、みたいな。ちょっとした悪役の場合が多いんですよね。ヒーローとか主役みたいなものはちょっと性格的にちょっと合わないんで」

ーーあ〜、そういうもんなんですか〜!

「あとは個人的にしっとりした歌が好きだったのもあります。静かな歌はやっぱり高い声よりも低い声のほうが味や深みが出ますから。と言っても僕はバリトンの中ではかなり高いほうなんですけどね、ハイバリトンと言って、バリトンの中でいちばんテノールに近い声質です」

ーークラシックの良さってどんな部分だと思います?

「それはやっぱり絶対的な骨組みができてるってことですよね。言葉がなかった時代から歌はあったわけで、本当にずっと昔からみんなでキャンプファイヤーして歌って踊るっていう文化はあったんですよ。その後1685年に生まれたバッハという偉大な作曲家がそれまでの長い歴史を背景にしてその後の模範となるような音楽を作り出したんです。そこから最近のクラシックまで400年間ずっとそこが基盤になって作られているので、まず飽きることがないし崩れることがないですよね。それでも聞き馴染みのない曲はやっぱりあるんですけど、聴き込んで体に馴染めば骨組みがしっかりしてるのは明らかに分かるんです。だからこそ400年前に作られた曲がCDとして今でも出続けているんだと思いますし」

ーーバッハ以前には有名な作曲家や歌はないんですか?

「もちろんそれ以前もたくさんの作曲家や文化が音楽の基盤を作り続けてきたと思うのですが、正直僕はあまり詳しくなくて(笑)。今楽譜は五線譜で書かれていますが、昔はそれも形式が違いましたからね。あとは政治的な問題も関係していて、当時書かれた楽譜があまり現存してないらしいですね……きっと偉大な曲は無数に他にもあったんでしょうけど。それに楽器が発達してきたのもバッハの少し前の時代からなんですよ。と言っても今の楽器と違って薄い音しか出せなくて、ちょっと弾くとすぐ壊れちゃうようなもので。だから大きい声で歌うと楽器の音が聞こえなくなっちゃうから、わりと静かな音楽ばっかりだったみたいですね。  実は今の演歌やポップスも大好きなんですけど、やっぱり忘れないもの、頭から離れないものはクラシックなんですよ。骨組みができているクラシックと新しいものを追求するポップスだと生産過程が違うので全然別ものだと思いますけど、個人的にはすごく几帳面なA型なこともあって、骨組みが定まっているクラシックのほうがしっくり来るんですよ」

ーークラシックはほとんど外国の歌ですが、今歌ってるものでは何語が多いんですか?

「レパートリーとしてはドイツ語が圧倒的に多いですね。オペラじゃなくて歌曲なんですけど。実は最初はあまりオペラに興味はなかったんです。大学三年頃から舞台に出させてもらうようになって、それで楽譜を読み込むためにイタリア語も勉強するようになってからオペラの楽しさもどんどん分かってきました。だから大体オペラだとイタリア語、歌曲だとドイツ語が多いですね。あと修士の研究過程はイギリスの曲を学んでいるので今は英語も歌ってます」

ーー英語・イタリア語・ドイツ語が今挙りましたけど、それは普通に喋れるんですか?

「いや〜、会話だとまた別ですね。聞いたことをある程度理解することはできますけど、会話は現代の言葉なのでそれはまた全く別の勉強をしないとできないです。クラシックの言葉はその時代のものですからね」

ーーそうなんですか〜! まぁでも、言われてみれば日本の古い歌でもそうですもんね。

「“我申す”とか今は使わないですもんね(笑)。そういう現象がクラシックだと多々起きるんです。現代語学より先に昔の歌詞を先に勉強してしまっているので、古い言葉に馴染んじゃってるんですよね」

ーーイタリア語の楽しさを知ったとさっき言ってましたが、イタリア語はどういう部分が楽しかったんですか?

「これは国の性質なんでしょうけど、イタリアの曲はすごく暖かいんです。カンカン照りに晴れてラテンの乗りで明るい人が多く国で、曲もその通りの雰囲気なんですよね。あとは言葉の母音が“あいうえお”なんで、日本人にはすごくやりやすいし馴染みやすい言葉でもあるんです。例えばドイツ語だと日本語にはない発音がたくさん出てくるのでそこで躓きやすいんですが、イタリア語はすごく入りやすいですね。多分日本人が勉強していちばん分かりやすいのはイタリア語だと思います。すごくシンプルな言語で、どんどん省略しちゃうし。「私は」を省いて「それ○○やっといて」みたいな言い方にしたり」

ーーあーなるほど、それは日本語風ですよね。

「そうですね。ドイツ語だと主語は省略してはいけないのが普通ですから。それだけにドイツ語も非常に魅力的な言語なんですけどね。それぞれの国によって言葉に特色があるのでいろんな言語を歌える『歌手』はかなりお得な職業だと思います(笑)。歌を好きになったきっかけがここにある気もするくらいですね」

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加耒徹
(26歳/バリトン歌手)

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かくとおる……1984年5月生まれ。福岡県出身。
5歳よりヴァイオリンを始め、高校で声楽を始める。2004年、東京藝術大学音楽学部声楽科バス専攻に入学。卒業時の2008年、同声会賞受賞。新人演奏会出演。現在は藝大修士課程の二年次在籍中。第20回友愛ドイツリートコンクール第2位。併せて日本歌曲賞、日本Rシュトラウス協会賞を受賞。
声楽を福嶋敬晃、勝部太の両氏に師事。これまでにG.ボッセ、M.アンドレーエ、E.オルトナー、F.レニッケ、鈴木雅明、現田茂夫、小泉ひろし等の指揮者のもと、九州交響楽団、藝大フィル等と共演。音楽ビアプラザライオンメンバー。その他受賞歴・出演歴多数。

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